不動産売買後に契約不適合が発覚したらどうなるんでしょうか。
瑕疵担保責任のときとの違いを教えてください。
瑕疵担保責任のときと比べて、契約不適合責任が発覚した場合の買主の権利は広くなりました。
つまり改正によって売主側のリスクは大きくなったと言えます。
契約実務がどのように変わったのか、詳しく見てみましょう。
【改正ポイント①】買主からの責任追及の方法の選択肢が増えた
瑕疵担保責任と契約不適合責任という新旧条文を見比べると、買主から売主へ行使できる責任追及権の選択肢が増えていることがわかります。
旧法の瑕疵担保責任においては買主側からの損害賠償請求・契約解除が認められていましたが、改正民法では追完請求権と代金減額請求権というものが新たに創設されました。
売主にとってのリスクが大きくなった要因の1つと言えます。
瑕疵担保責任に基づく買主の権利 | 契約不適合責任に基づく買主の権利 |
・損害賠償請求権 ・契約の解除(契約目的が達成できないとき) |
・損害賠償請求権 ・契約の解除 ・追完請求権(新設) ・代金減額請求権(新設) |
追完請求権とは?
追完請求権は、売買の目的物が契約の内容に適合していない部分について、適合させるように補完を求める権利です。
追完請求権にも3つの分類あり、買主は状況に応じて「①目的物の修補」「②代替物の引渡」「③不足分の引渡」を求めることができます。
不動産の契約不適合においては「①目的物の修補」を求めることが一般的です。
目的物の補修請求 | 目的物の補修を請求できる。 |
代替物の引渡請求 | 目的物の替わりになる他のものの引渡を請求できる。 |
不足分の引渡請求 | 足りない分を追加で請求できる。 |
代金減額請求権
契約不適合を理由に売買代金を減額することを求める権利を、代金減額請求権といいます。
代金減額請求権は無条件で行使できるわけではなく、原則として下記①~⑤の条件のいずれか1つを満たしている必要があります。
①相当の期間を定めて履行の追完を催告したのに期間内に履行がなかったとき
②売主の履行の追完が不可能のとき
③売主が履行の追完を明確に拒絶したとき
④特定の期間内に履行の追完がなければ買主が購入した目的が達成できない場合において、その期間が経過したとき
⑤その他、履行の追完を受ける見込みがないと認められるとき
契約不適合の問題が生じたとき、まずは追完請求権によって処理することを前提としています。
追完請求では解決できないときの買主救済の手段として代金減額請求権があるというイメージです。
【改正ポイント②】責任追及可能期間が長くなることがある
買主から契約不適合の責任追及ができる期間は「不適合を知ったときから1年間」に限られており、この期間を経過すると権利の行使ができなくなってしまいます。
旧民法の瑕疵担保責任においても同様に、権利行使の期限が定められていました。
改正民法においては、売主が不適合を知っていたのにそれを買主に告げずに目的物を引き渡したときについては、1年間という行使期限は適用されなくなるという規定が設けられました。
通知しなければ、一般の消滅時効にかかるまでは買主はいつでも不適合責任を追及できることになってしまいます。
売主として認識している不適合については必ず買主に告げるようにしなければなりません。
【改正ポイント③】買主が契約を解除できるケースが増えた
旧民法の瑕疵担保責任では目的物に瑕疵があったときの買主の解除権についての定めがありました。
その内容は以下の通りです。
契約をした目的を達することがきないときは、買主は、契約の解除をすることができる。(旧民法566条、570条抜粋)
たとえば住宅用建物の売買においては「居住する」ことが買主の目的です。
「居住できないくらい重大な欠陥」があれば、売買目的不達成を理由に契約の解除ができるいうことになります。
しかし、この基準は非常にハードルが高く、実務で買主が解除できるケースはごく限られたものでした。
改正民法においては、目的不達成の要件がなくなりました。
買主は目的が達成できないということを証明しなくても契約不適合を理由に売買を解除することができますので、旧民法よりも解除可能なケースが増えることが予想できます。
買主が契約解除をするためには条件がある
目的不達成の要件はなくなりましたが、無条件で契約を解除できるわけではありません。
解除権を行使するためには下記の要件を満たす必要があります。(新民法541条)
・買主から売主へ責任追及の催告をしたのに売主が応じないとき
・契約不適合の内容が社会通念上軽微でないとき
【改正ポイント④】買主側から賠償請求できる金額の範囲が大きくなる
瑕疵担保責任の規定では、目的物に瑕疵があったときに買主から売主へ損害賠償請求についての定めがありました。
現行民法においても買主からの損害賠償請求権は認められていますが、少しだけ内容が異なっていることも押さえておきましょう。
「損害」として認められる範囲が大きくなった
旧民法における損害賠償請求権の「損害」の範囲は、信頼利益の範囲までという考えがありました。
信頼利益とは、買主が売主を信頼して契約したことで発生した損害のことです。
建物を瑕疵のない状態に戻すための費用や、契約にかかった実費などが信頼利益として認められます。
改正民法では、「信頼利益」から「履行利益」の範囲まで損害として認めるという考え方に変わっています。
履行利益とは、問題なく契約ができていれば発生していたであろう利益のことをいいます。
たとえば欠陥がない状態で転売すれば利益が出ていたのに、契約不適合が発覚してその利益が得られなくなってしまったというケースにおいては、その額まで損害として認められることになります。
損害として認められる範囲が信頼利益から履行利益に拡大したことで、買主から請求できる損害賠償の額は大きくなると言えます。
損害賠償請求そのもののハードルは高くなった
損害賠償請求できる金額の幅が大きくなった一方で、権利行使が認められるハードルは高くなりました。
旧法の瑕疵担保責任規定においては、瑕疵から損害が発生したことが証明できれば、買主から売主に損害賠償請求権を行使することができました。
ところが改正民法においては、買主から損害賠償請求権を行使できるのは、その不適合が売主の責任によって発生したものでないときに限られます。
つまり売主側に落ち度がなければ損害賠償請求は認められず、原則通り追完請求権の行使にとどまることになります。
実際、買主が売主の落ち度(過失)を証明することは簡単ではありませんので、損害賠償請求すること自体は従来よりもハードルが高くなったと言えます。
損害賠償請求が認められる場合は請求できる金額が大きくなった
改正によって売主のリスク高くなった
今回の紹介したポイントをまとめると以下のようになります。
②不適合の不通知があった場合、責任追及できる期間が長くなる
③買主側が契約を解除するハードルが下がった
④買主側から賠償請求できる金額の範囲が大きくなる
改正によって売主のリスクが大きくなっていると言えるので、不動産を売却するときは今まで以上に気を付けなければなりません。
民法が改正して1年以上経過しますが、まだまだ新法の考え方が取引実務に浸透しきれていない部分があります。
契約不適合で問題になりそうな物件を売買するときは、宅建業者の選定も重要になりそうです。
別記事で、契約不適合の対象範囲について解説していますので、良かったら合わせてご覧ください。
参照記事:瑕疵担保責任から契約不適合へ、改正で何が変わった?【責任範囲編】
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