
建物プランニングの際に建築士から「天空率を使えばもっと大きな建物がつくれますよ」と言われました。天空率って何ですか?

天空率は、建物の高さを規制するルールに対する緩和措置です。
大きな建物をつくりたいとき、道路斜線や隣地斜線などの規制に引っかかってしまい、希望通りの大きさの建物が計画できないという場合があります。
しかし天空率の緩和を使えば建物ボリューム増加が実現できることがあります。
天空率は建築の中でも極めて専門的な分野なので、不動産取引においては「どんな緩和措置なのか」という大枠のイメージを噛み砕いて説明します。
建物を造るときに守らなければならない斜線制限
建物を建築するためには様々な法令制限を守らなければなりません。
中でも道路斜線制限・隣地斜線制限・北側斜線制限は、土地の形によってかなりネックとなることが多く、アパート建築でボリュームを出したいというときに頭を悩ませることがあります。
天空率は、斜線制限の緩和措置
たとえば、道路斜線制限は道路の対岸線から引かれた一定の勾配(角度)の斜線からはみ出さないように建物をつくらなければならないという制限です。
道路斜線制限スレスレでめいいっぱい建物を造ろうとすると、上のイメージ図のように台形型の大きなビルができます。
しかし建物のプランによっては、こんなに高い建物をつくる必要はないというときもあると思います。
天空率は「建物の形を小さくするのであれば斜線制限をはみ出してもいいですよ」という緩和措置です。
7 次の各号のいずれかに掲げる規定によりその高さが制限された場合にそれぞれ当該各号に定める位置において確保される採光、通風等と同程度以上の採光、通風等が当該位置において確保されるものとして政令で定める基準に適合する建築物については、それぞれ当該各号に掲げる規定は、適用しない。
具体的にどのように緩和されるのか、天空率の考え方を見てみましょう。
天空率=ある地点から見える空の大きさ
まず天空率という言葉の意味ですが、ざっくり言うと「ある地点から見える空の大きさ(割合)」ということになります。
上の図は、道路斜線いっぱいに建物をつくったときの道路側からの視界を表したイメージ図です。
斜線制限に適合した内容ではありますが、空が見えにくくて結構圧迫感がありますよね。
では、一旦道路斜線は無視して建物の高さを低くしてみたケースを考えてみましょう。
下記の図は先程の建物の高さを1/3ほどに小さくした長方体の建物です。
一部、道路斜線のラインからはみ出しており、このままでは法令に適合しない建物となってしまいます。
この建物を先ほどと同じように道路側から見た場合はこのような視界になります。
道路斜線に抵触しているものの、先ほどよりも見える空の割合が大きくなっており、圧迫感も小さくなっていることが分かると思います。
2つの建物を比べたとき、道路側から見た圧迫感はあきらかに後者の方が緩和されており、採光や通風も保たれます。
このように実際に建物の目の前に立った時の視点から見える空の割合(天空率)が大きくなるのであれば、斜線制限を無視しても問題ないというのが天空率という緩和措置の考え方です。
建築基準 | 空の割合 (天空率) |
道路斜線制限 |
合格 | 高い | 違反 |
不合格 | 低い | 違反 |
建物の高さを抑えた方が結果的に床面積が多くとれることもある
天空率を広げるためには建物の形を小さくしなければならないので、全体の床面積(容積)は小さくなると思われがちです。
しかしこれはケースバイケースです。天空率緩和を使うことで1フロアあたりの面積を横に伸ばすことができるので、結果的に全体の床面積を大きくすることができる場合もあります。
天空率の緩和を使った方がいいかどうかは建築士による事前ボリュームチェックで分かります。これから土地を購入するというときは、あらかじめ建築ボリュームを相談しておくようにしましょう。
天空率計算の基本的な考え方
天空率を計算するとき、計測地点外周に置かれた球体と建物の形が重なる面積の大きさを測定します。360度魚眼レンズで見た建物の形をイメージすると分かりやすいと思います。
法規適合建物と計画建物のそれぞれの天空率を比較する
天空率の緩和が受けられるかどうかを判定するためには、斜線制限をめいいっぱい使った計画(適合建物)と、道路斜線を無視した希望計画(計画建物)の2パターンの天空率を算出する必要があります。
下図のようにそれぞれの建物規模のイメージを立ち上げ、計画建物の天空率の方が大きいということを証明する図面を作成します。
建物の外周の各視点から測定する
天空率の判定は、建物外周の複数の視点から行います。
実際の斜線制限が適用されるライン上で一定の距離ごとに測定を行い、それぞれの地点で計画建物の方が天空率が大きいという事を証明しなければなりません。
適合建物よりも天空率が小さくなってしまう測定地点が1箇所でもあると、緩和を受けることができません。
天空率の緩和は日影規制には適用できない
天空率による高さの緩和が受けられるのは、道路斜線制限・隣地斜線制限・北側斜線制限に限られます。
日影規制(隣の建物に一定時間以上日陰を造らないようにしなければならない制限)に関しては天空率による緩和は受けられません。
まとめ:天空率を考慮した設計は通常よりも手間がかかる
天空率を考慮した設計は通常のプランニングよりも考えることが多くなり、建築士の手間は増えてしまいます。
天空率を自動計算する専用ソフトもありますが、やはり時間はかかりますし、天空率を効率よく駆使するためには建築士の高度なスキルが必要になります。
敷地の容積率を有効活用するために天空率の使用がマストとなる敷地もありますので、事前に建築士に相談するようにしましょう。