最近、不動産IDが導入されるかもしれないという話を聞きます。施行されるとなにが変わるのでしょうか。
不動産取引においてはかねてから、「不動産に対する情報が各方面に散らばっている」という問題点がありました。
たとえば一つの土地があれば、その土地に対して法務局・都道府県・区市町村・税務署・関係組織・当事者などが、それぞれが異なる情報を保有しています。
それらの情報を一本化することで、不動産の利活用や流通の促進につながるという効果が期待されています。
不動産IDルール導入検討の目的
現在の不動産市場における課題の一つに、情報収集に大きな労力・コストがかかっているという点があります。
一つの不動産に対する情報が各方面に散らばってしまっていることが大きな原因となっています。
・各不動産に紐づく共通のコードが存在しない
・不動産情報の名寄せができず、情報連携が困難
不動産を識別するための重要な情報に、地番・所在地・住所などがありますが、機関によって表記方法が異なってしまっているというのも情報連携を難しくしている原因となっています。
たとえば、ある機関では「不動産町一丁目」と記載されている住所が、別の機関では「不動産町1丁目」と書かれていたり、
またある機関で「1番地1号不動産アパート101号室」と記載されている住所が別の機関で「1-1-101」と書かれていたり…
同じ不動産なのに管理主体によって表記方法が違うので、確認や調査に余計な時間がかかってしまうというのがよくあるのです。
昨今、国土交通省では「不動産ID」というルールの制定に向けて議論が進んでいます。
本格的なデジタル社会を迎えるにあたり、不動産DX を推進する上での情報基盤整備の一翼を担うことを目的として、産官学の不動産分野の関係者を挙げて、各不動産の共通コードとしての「不動産ID」に係るルール整備について検討します。
不動産IDは個人でいうマイナンバーのようなもので、国内に存在する全ての不動産に識別情報(番号)を付与し、管理を行うというものです。
不動産IDのルールを整備することで官民に散らばった情報が1つのデータベースに集約され、連携がとれやすくなることから、多様なサービスの創出につながることが期待されています。
導入検討の背景
不動産市況は、昨今のコロナ渦においてもリーマンショックのときのような大きな経済急変は今のところ起きていません。
しかしながら感染拡大による影響が多方面で現れていることから、多くの人が先行きの見えない不安を感じていると思います。
このような状況で不動産取引の活発化や資産の有効活用を促進していくためには、官民が一体となって連携を図ることが重要になります。
不動産ID化の議論は以前からありましたが、コロナ情勢の中で更に重要性が叫ばれるようになり、令和3年9月に国土交通省主導のもとで不動産IDルール化実現に向けた検討会が開かれることになりました。
導入検討する上で重要なプロセス
国土交通省は、不動産流通市場の円滑化・資産有効活用の促進を実現するために重要なプロセスとして以下のことを挙げています。
2.官民の各主体が保有する不動産関連ビッグデータの連携促進
3.市場の透明性の向上
4.不動産に関わる意思決定の円滑化・高度化
不動産IDが導入されることによるメリット
情報が共有されることで不動産市場はどのように変わるのでしょうか。
不動産IDを付与したあとの具体的な施策については現在議論が進んでいるところですが、考えうる将来的な展望として期待できるメリットを考えてみましょう。
メリット①取引が活性化される
現在のルールだと行政・民間企業・個人が保有しているそれぞれの不動産情報を1つに集約するということは極めて困難です。
不動産取引の当事者は、完全に情報が見えない中で取引を行わなければないという課題があり、それが流通の円滑化を阻害する要因の一つになっていました。
不動産IDのルールが施行されれば今よりも簡単に対象不動産の情報が引き出せるようになります。
それによって当事者は安心して意思決定ができるようになり、取引自体が活発になるという効果が期待されています。
メリット②情報入手が容易になる
現在のルールでは不動産取引時に必要となる情報は1つの機関に集約されていません。
取引前には、法務局・都道府県・市区町村・行政官庁・関係組織・当事者など多方面から情報を収集しなければならず、一つの取引に対して大きなコストや手間がかかってしまうという問題点がありました。
不動産IDが導入されることで必要な調査作業が容易にできるようになり、これまでかかっていたコストや手間が大幅に削減できると言われています。
メリット③眠っている資産を発見しやすくなる
不動産IDのルールが実装されて情報がオープンになると、利用されていない不動産や、昨今問題となっている所有者不明土地の所有者探索などが今よりも容易になると言われています。
また、不動産の取引がID管理されることで、長年取引(活用)がされていない不動産を簡単に発見することができるようになります。
そのような不動産の所有者に対して直接アプローチができれば、不動産の活用・流通の促進につながるかもしれません。
メリット④テクノロジーを用いたサービス向上
不動産ID付与によって集約されたデータベースとテクノロジーを提携させることで様々なサービス創出につながると言われています。
具体的にはインターネットにおける物件広告の重複掲載の防止や、おとり広告の排除、AIによる価格査定の精度向上などがあげられます。
これらのサービスが民間に普及すれば、今よりも不動産取引が身近なものになるかもしれません。
不動産IDの付け方(現時点での検討内容)
不動産IDとして割り振られる識別番号のルールとして、下記の内容が検討されています。
概ね1つの不動産に対して13桁の番号を割り振るという方向性で進んでいますが、区分所有以外の共同住宅の部屋番号をどのように表現するかという点についてはまだ決定していません。
IDを付す単位 | IDのルール | 登記の単位と不動産番号 | ||
土地 | 筆ごと | 不動産番号(13桁) | 筆単位で登記記録・不動産番号が存在 | |
建物 (戸建て) |
建物全体 | 不動産番号(13桁) | 建物単位で登記記録・不動産番号が存在 | |
建物 (区分所有でない 共同住宅等) |
取引単位(部屋等)ごと | 不動産番号(13桁)に加えて、枝番で、階数(2~3桁)・部屋番号(3~4桁)を追加 | 建物全体で一つの登記記録・不動産番号が存在
→賃貸等の不動産取引の対象となる、部屋ごとの登記 |
|
区分所有建物 | 取引単位(部屋等)ごと | 不動産番号(13桁) | 各区分所有建物(各部屋)単位で登記記録・不動産番号が存在 |
どこまで情報がオープンとなるのか…
不動産IDが整備されることで、物件に係る情報がどこまでオープンとなるのか、どこまでの情報が管理対象となるのか、具体的な運用方法についてはこれから細かい議論がなされていくことだと思います。
不動産オーナーにとっては情報がオープンになりすぎても困るというケースも出てくると思います。
たとえば、この物件をいくらで購入したのか、いつどのようなリフォームをしたのか、賃貸物件であればどれくらいの稼働率があるのか…
このような情報が取引当事者や第三者から閲覧されるとなると都合が悪いというオーナーもいるのではないでしょうか。
不動産IDが整備されることで実務の場で具体的にどのように情報が扱われるのか、今後の動向に注目したいところです。
不動産取引にどのような影響をもたらすのか
不動産IDが導入されることで情報が連携されるようになると優良物件などの情報はこれまで以上に多くの人に知れ渡ることになります。
すなわち、購入を検討するときの決断スピードが重要になると言えます。
また、取得できるデータが膨大になることから、取引に必要な情報の取捨択一も大切なポイントとなることでしょう。
売主においては、不動産情報がオープンになりやすいことによって取引の在り方が変わる可能性があるということも意識しておいた方がいいかもしれません。
利便性が高くなる一方で、専門的な知識や取引スキルが今までよりも重要になるので、信頼できる不動産業者選定も大切なポイントになります。