
日本にはたくさんの空き家があり、様々な問題を引き起こしているとよく耳にします。行政は空き家に対してどのような対策を考えているのでしょうか。

日本には約800万戸を超える空き家があると言われています。
国内の住宅ストック数の約15%が空き家ということになり、かなりの数だというのが伺えます。
しかし一口に空き家といっても、そのすべてが使われていない家屋(もしくは使えない家屋)だとは限りません。
活用が可能な不動産であれば、それを円滑にしていくためのサポートが必要になると言えます。
課題と現状を把握するために、まずは統計のデータを見てみましょう。
・国内の空き家の現状がどうなっているのかをざっくり把握する
・行政が行っている対策を把握する
・空き家に対する固定資産税と、譲渡するときの所得税について理解する
日本国内における空き家の現状
まず、国内における空き家のストック数の推移を見てみましょう。
総務省が実施する住宅・土地統計調査のデータによると、空き家のストック数は1988年から2018年の20年間でおよそ1.5倍(576万戸→846万戸)に増加しています。
とりわけ手付かずとなっている空き家(その他の空き家)の増加率は著しく、20年前と比較すると1.9倍にのぼります。
空き家の分類
住宅・土地統計調査のデータをより詳しく分析するために、調査実施時における空き家の分類と定義について確認してみましょう。
■「空き家」の分類
二次的住宅 | 別荘 | 週末・休暇時に避暑・避寒・保養などの目的で使用される住宅で、ふだん居住している人がいない | 4.5% |
その他 | ふだん住んでいる住宅とは別に、たまに寝泊まりしている人がいる住宅 | ||
賃貸用の住宅 | 賃貸のために空き家になっている住宅 | 50.9% | |
売買用の住宅 | 売却のために空き家になっている住宅 | 3.5% | |
その他の空き家 | 長期にわたって居住者不在の住宅や、取り壊す予定のある住宅など | 41.1% |
上記の内訳をみると、「賃貸用の住宅」と「その他の空き家(デッドストック)」で全体の90%を占めていることが分かります。
「賃貸用の住宅(50.9%)」は、長期的に入居者がつかないような物件だけではなく、たまたま退去者が出たタイミングで募集をかけているという物件も数にカウントされており、活用の余地が十分残っているものです。
空き家として特に問題が大きいのが、約4割を占める「その他の空き家(41.1%)」です。
これらの空き家は賃貸や売買に出す予定がなく、さらに所有者自身も使用する予定がない建物であるので、適正に管理されていないことが多く、周辺の生活環境に悪影響を及ぼしているケースがあとを絶ちません。
住宅ストック総数に占める空き家の割合は5.6%
空き家の中でも特に使用の予定がない「その他空き家」が、全ての住宅に占める割合(空き家率)の全国平均は5.6%となっています。
100軒住宅があれば5件以上は空き家になっているということになります。
都道府県別でみると高知県(12.7%)、鹿児島県(11.9%)、和歌山県(11.2%)が特に高い数値というデータがあります。
混合されがちな「新築住宅の建築ラッシュ」
空き家問題とあわせて話題にあがるのが住宅建築ラッシュの件です。
これだけ空き家が蔓延しているのに、新しい建物を建築しすぎているのではないかという意見を耳にすることはあると思います。
たしかに「これ以上建物が増えすぎると、総人口(総世帯数)に対する住宅必要数をストックが上回ってしまい、供給過多になってしまうのではないか」という不安も理解できます。
しかし、現時点で問題となっている空き家の多くは、いわゆるデッドストックと言われる住宅群です。
旧耐震基準時代につくられた建物や老朽化した建物が大半を占めており、おそらく購入して自分で住みたいと誰も思わないから空き家になったものばかりではないでしょうか。
日本人は新築・築浅を好む傾向が強く、一般住宅であればおよそ30~40年のスパンでスクラップ&ビルドを繰り返してきた過去があります。
いかに空き家数が増加しても、新しい住宅に住みたいという層は常に一定数いるので、「新築住宅を建てる必要がなくなる」という未来はしばらくはこないのではないか思います。
(「古民家に住みたい」という需要が広く一般的になれば話は別ですが…)

今後も市場に住宅需要がある限りは一戸建てやマンションの新規供給は続くでしょうし、空き家数が多いということが直ちに住宅全般の資産価値を下げる要因にはならないと考えられます。
行政が行う「空き家対策」について
適正に管理が行き届いていない空き家が近隣の生活環境に重大な影響を与えているという現状を受けて、平成27年に「空家等対策の推進に関する特別措置法」が施行されました。
(以降、空家対策法で統一します。)
空家対策法では、空き家の中でも特に問題が大きい住宅を特定空家等と定義し、指導や勧告、命令、代執行などの措置が行政を主体に行えるようにしています。
この法律において「特定空家等」とは、そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態又は著しく衛生上有害となるおそれのある状態、適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態にあると認められる空家等をいう。
つまり特定空家等に該当する住宅は、行政が適正な手続きを踏んだうえで強制的に建物を取り壊すことも可能になったのです。
①倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態
②著しく衛生上有害となるおそれのある状態
③適切な管理が行われないことにより著しく景観を損なっている状態
④その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態
財政上の支援措置
指導や勧告だけではなく、空き家を処理するための具体的な支援が必要になることもあります。
現在行われている行政の支援措置としては以下のものがあります。
①総合的な支援
具体的な支援の一環として、空家対策法に基づいて定められた「空家等対策計画」に沿って市町村を主体とした対策が行われています。
空き家の活用・除却が円滑に行われるよう、国も地方公共団体を幅広く支援しています。
②相談体制の構築
空き家の所有者や近隣住民などからの相談に対して対応できる人材の育成を行い、専門家等と連携して相談体制を構築する取組も行われています。
都道府県から市町村へ技術的な助言を行ったり、市町村相互間で連絡調整や必要な援助
を行うなどして、関係機関が協力して空き家問題を解決できる体制を整えるようにしなければなりません。
税制上の措置
不動産にかかる税制の措置を行うことで、円滑な空き家対策につながることもあります。現在行われている税制上の対策として、以下のものがあります。
①固定資産税の特例から除外
住宅用地の固定資産税評価額は、原則として1/6に軽減されるという特例があります。
(200㎡を超える部分は1/3軽減)
建物所有者にとってはかなりメリットの大きい措置であると言えます。
住宅用地特例は建物が住宅の用途であれば使用状況に関係なく軽減が適用されるという制度でした。
空き家でも特例が適用されていたので、今すぐ活用しないのであれば空き家を放置していた方が税金が安く済むということになり、所有者にとってわざわざ建物を取り壊すメリットがなかったのです。
言い換えると住宅用地特例が間接的に空き家問題をつくりだしてしまっていたと考えられなくもありません。
そこで、市町村長が勧告をした特定空家等の敷地については固定資産税の住宅用地特例の対象から除外するという対策がとられました。
これによって、これまで固定資産税がほとんどかかっていなかったような空き家も更地同様の評価がされるようになり、空き家の所有者は売却など何らかの対策をとることを考えるようになりました。
空き家だからといって直ちに固定資産税が高くなるというわけではありません。
②被相続人居住用家屋および敷地の譲渡所得税の控除
空き屋の相続人がその土地・建物を売却する場合の譲渡所得税の特別控除枠も新設されました。(平成28年創設)
譲渡所得から3,000万円が控除されるという制度になっており、住宅の規模であれば非課税となるケースが多いのではないでしょうか。
マイホーム(居住用財産)を売った場合の3,000万円の特別控除の特例
(被相続人の居住用財産(空き家)を売った場合の3,000万円の特別控除の特例)
この特別控除は令和5年12月31日までの時限措置となっているので、相続した空き家を近く売却しようと検討している人は覚えておくようにしましょう。
■昭和56年5月31日以前に建築されたこと。
■区分所有建物登記がされている建物でないこと。
■相続の開始の直前において被相続人以外に居住をしていた人がいなかったこと。(老人ホーム等に入所していた場合など一定の要件を満たすときはこの限りではない)
特例の対象となる敷地
■上記の建物の敷地の用に供されていた土地※その他、特例を受けるための適用要件が定められています。
空き家問題について
日本国内には未だ多くの空き家問題が混在していますが、個人で解決することが難しいというケースも多いため、様々な行政支援が稼働しはじめています。
(空き家でお悩みの所有者の方は、お住いの地域で実施している取り組みを確認するのもいいと思います。)
空き家問題は、不動産という限られた資源を有効に活用していくために、行政と民間が一丸となって考えなければならない課題なのかもしれません。