不動産取引の仲介手数料はなぜ高額なのか?不動産業者の実務と併せて解説

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マジメに不動産

真地 リョウ太  Twitter
1989年生まれ。2012年から不動産会社で売買実務を担当。不動産相続対策の案件も実績あり。本サイトでは業務経験から得たスキルをみなさんに発信できればと思っています。宅地建物取引士・行政書士試験合格・FP2級。好きな食べ物は梨。

 

某SNSで「不動産取引の仲介手数料が高すぎる」という意見を見ました。

 

書類作成だけなのにどうして仲介手数料はあんなに高いのでしょうか?ちょっとぐらい安くならないもんなんですか?

宅建業法上の仲介手数料規定は、400万円以上の取引であれば物件価格×3%×6万円が報酬の上限となっています。

 

たとえば5,000万円の売買仲介を依頼する場合は報酬が156万円です。

 

この報酬をただ単に「書類作成代」として捉えるなら、確かに不相応に高いと感じる人がいるのも理解できます。

 

しかし不動産業者の実務は、単に書類作成や説明だけではありません。

 

取引が成立するまでの背景には様々な調整事があり、不動産業者があらゆる課題をクリアして収拾を付けているという側面があるのです。

 

不動産業者へ支払う報酬の中身について考えてみましょう。

 

宅建業法上の仲介手数料

なんで仲介手数料ってあんなに高いの?

 

まず、不動産業者が売買仲介業務の対価として受け取る仲介手数料の上限計算は下記の通りです。

①200万円以下の取引 取引金額×5%
②200万円超~400万円の取引 取引価格×4%+2万円
③400万円超の取引 取引価格×3%+6万円

不動産の価格は高額なので400万円を超えるケースが圧倒的に多く、ほとんどの場合が③の計算式に該当します。

売買価格が5,000万円となれば仲介手数料は156万円(税抜)となりますので、当事者にとってはかなり大きな支出となると思います。

では、仲介手数料に含まれる不動産業者のサービスには何が含まれているのか考えてみましょう。

 

不動産業者のサービス内容

不動産業者の業務内容を大きく分類すると、以下の4つです。

(1)契約前の条件交渉・物件調査

(2)契約事務

(3)契約後~引渡までの事務

(4)引渡後の問題発生時のサポート

具体的な業務内容は以下の通りです。

 

契約前の条件交渉

なんで仲介手数料ってあんなに高いの?

 

取引には「均衡する2人の当事者の意見を調整し、最終的に1つの契約を形成していく」という作業が不可欠です。

取引が売買であれば、基本的に売主は高く売りたい買主は安く買いたい、と考えるのが人情です。

不動産業者はそのような当事者の間に介入し、さまざまな交渉のカードを持ち合って両者が納得のいく落としどころを決めていくという業務を行っているのです。

 

交渉の難しさ


条件交渉で決める項目は価格だけではありません。取引対象不動産の免責の有無や期間手付金の額解除特約の内容実測清算の有無…など、内容は多岐にわたります。

これら契約条件には普遍的な正解はなく、物件の状況や需要度、当事者のリスク度合いなどによって最適解が異なってくるというのが難しいところです。

不動産業者は、数々の取引経験の中で得たアンテナを頼りに「こういうケースではこういう条件を付けた方がいいな…」という感じで、2手、3手先読みしながら落としどころを導き出す交渉をしているのです。

 

契約前の物件調査

なんで仲介手数料ってあんなに高いの?

契約前の物件調査も非常に重要な業務です。

不動産業者は取引後にトラブルにならないよう、物件の詳細をきちんと調べて売主と買主が理解した状態で契約締結できるように準備を行っています。

物件調査の意義としては、売主側には「契約後に買主から責任追及されるリスクを軽減する」という目的があり、買主側には「引き渡されたあとに問題なく使用できることを事前に確認する」という目的があると思います。

すなわち、売買仲介に元付と客付の2社が絡んでいる場合であっても、両業者はそれぞれの依頼主が不利益を被らないように各々物件調査を行う信義則上の義務があると言えます。

万が一物件調査の内容に不備があった場合、取引によって生じた損害は不動産業者側が賠償しなければならないので、非常に責任重大な業務であることが分かると思います。

 

物件調査の内容


業者が行う物件調査には「宅建業法上で説明が義務付けられている項目」「業法上の義務ではないが、当事者が困らないよう調べなければならない項目」があります。

ざっくり分類すると下記のような調査を行っています。

調査項目 目的
権利関係 第三者の権利によって取引目的が阻害されることがないか。
都市計画法、建築基準法、条例等 問題なく建築もしくは再建築することができるか。どんな建築制限があるか。
防災関連 ハザードマップの有無、関係法令の制限区域該当の有無
道路関係 前面道路の権利形態や管理責任者などはどうなっているか
行政関係 目的達成するために必要な手続きがあるのか。
設計図書 現存する建物に法規上・構造上の問題点がないか。リフォームの可否。
現況 使用する上で支障(瑕疵)がないか
マンション関係 組合・敷地権など共用のための手続きの整備状況、規約の内容、共用設備の状況確認
税務 取引時~取引後に発生する税金の概要
その他諸々…

 

契約事務

なんで仲介手数料ってあんなに高いの?

 

取引条件が決定したら、売買契約を締結していきます。

契約事務には、宅地建物取引士が行う重要事項説明売買契約の締結があります。

不動産業者は、事前に行った物件調査の内容や契約の条件について書面化したものを改めて当事者に明示して説明することで、お互いの認識の相違や語弊が生まれないようにしなければなりません。

 

ローン調整から引渡しまで

なんで仲介手数料ってあんなに高いの?

 

売買契約を交わしたあと、速やかに金融機関でローン審査の手続きを行わなければなりません。

審査の手続きに関しては基本的に金融機関の職員が主となり進行しますので、不動産業者はサポートという形で依頼者のお手伝いをします。

提携外ローンなどの場合は依頼者本人が自分で手続きを行うので不動産業者の出番がないこともありますが、業者は各金融機関の特徴や良い条件で借り入れるためのテクニックを熟知していることが多いので、金融機関との交渉によほど長けている場合でなければ不動産業者のサポートを受けることが望ましいと思います。

買主のローン審査承認後、代金清算と引渡が行われます。

代金清算(融資実行)の手続きは金融機関・司法書士・不動産業者で連動して行われますので、スムーズに行われるためには事前の打ち合わせが肝要です。

(必要書類に不備があったりすると最初から段取りしなおさなければならないこともあるので、要注意です)

原則として売買代金清算と同日に引渡しが行われます。

損傷の有無などで後々トラブルにならないよう不動産業者が立ち合いのもと現況を最終確認しながら引渡しが行われるのが一般的です。

 

引渡し後の相談窓口

引渡し後、実際に入居開始して初めて気付くこともあると思います。中には物件の瑕疵を見つけるなど重大なものもあります。

不動産業者はこのような引渡し後の問題に対する相談窓口の役割をも担っています。

「相手方が報告してきた内容と現況に相違があるので何らかの権利を行使したい…」このような状況になったとき、当事者同士で直接やり取りするのは難しい部分があると思いますが、不動産業者が間に入ることで問題解決の糸口が見える可能性が高くなります。

 

不動産業者へ支払う仲介手数料は、コンサル料の性質がある

なんで仲介手数料ってあんなに高いの?

 

仲介手数料は、単に契約書などの書類作成に対する対価に留まりません。

不動産業者は本記事で列挙した数々の課題を解決して依頼者の目的を達成するためのコンサルタント的な役割を果たしており、依頼者は仲介手数料という名のコンサル料を支払って取引のプロを雇っているという意味合いが大半を占めていると言えます。

 

必ずしも不動産業者に取引を依頼しなくてもいい

例えがあまり良くないと思いますが、何らかの法的紛争があって裁判を起こすとき、ほとんどの人が弁護士に裁判事務を依頼します。

弁護士費用は単に裁判書類作成に対する対価ではなく、「こうすれば優位に立てますよ」と、裁判上で有効な手段の助言まで行うというコンサル料の意味合いを持っていると思います。

しかし日本の訴訟制度は自己裁判が認められているので、裁判で戦うスキルを持っている人であれば必ず弁護士に依頼しなければならないわけではないですよね。

一方で、不動産業者は不動産取引の専門家です。

仲介業務には取引相手との交渉などが含まれていますが、それらを自分自身で行うスキルがあるのであれば、必ずしも高い仲介手数料を払って不動産業者に依頼する必要はないのです。

なので、仲介サービスの範囲を縮小して手数料を減額するという交渉は、場合によってはありなのではないかと思っています。

ただしその場合は下記の点に注意しなければなりません。

 

注意点① 全てが自己責任となる


たとえば取引相手を自己発見するケースにおいて、「書類作成と重要事項説明だけでいいので手数料1%で仲介を依頼したい」このような交渉が仲介業者との間で成立した場合、契約条件交渉や物件調査、契約後の相手方との調整などは自己責任であると考えられます。

「契約条件が一方的に不利な内容になっていないか?」「物件調査に穴はないか?」などということを当事者が十分吟味する必要があり、取引経験者でなければハードルは結構高いことなのではないかと思います。

 

注意点② 取引のテーブルにすら乗れない可能性がある


たとえば人気物件の売買において複数の希望者がいるという中で手数料減額の要望を貫くと、取引のテーブルにすら上がれないことがあるということもあります。

希望者が多い中で1番手をつかむという業務も、プロのスキルの上で成り立っています。

市場に流通している物件は、このケースは多いのではないでしょうか。

 

結局のところ仲介手数料は安くなるの?

なんで仲介手数料ってあんなに高いの?

 

不動産業者が受け取る仲介手数料がどうして高額なのかという理由について考えてみました。

取引の裏には目に見えない不動産業者の苦労があり、トラブルなく契約が完結するためのコンサルフィーであると考えるのが妥当ではないでしょうか。

報酬規程はあくまで上限額なので、必ず3%+6万円でなければならないわけではありません。取引内容によっては手数料減額交渉の余地があるケースも当然あると思います。

(実際、手数料割引や無料で仲介しているサービスもありますからね)

ただし報酬を支払うことでどんな対価を受けられるのか、減額要求することで依頼者がデメリットを被ることがないか、減額は妥当なのか、ということを的確に判断する交渉スキルを依頼主自身が持っていることが大前提になると思います。

根拠も経験もなく、不動産業者がどんな実務をしているのかも分からない状態で手数料の減額を要求する行為は、およそ交渉とは呼べないのではないかと思います。

 

見えないところで不動産業者が苦労していることが多いというのは是非理解してあげてください。

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