
アスベストとはどのようなものなのでしょうか?
建物にアスベストが使われていたらどうなりますか?またそのような建物の取引時に注意することはありますか?

かつては一般的に用いられていたアスベストですが、人体や環境に影響を及ぼすことが問題視され、1970年代から段階的に使用規制が敷かれるようになり、2006年にはアスベストの使用が全面的に禁止されるようになりました。
現在でも規制前に建てられた中古物件にアスベストが含まれていることがあり、不動産取引の際に問題になる場合があります。
アスベストが使用されている建物で生活していたことで、実際に健康被害が出ているケースもあるようです。
そもそもアスベストとは
「石綿」ともいわれるアスベストは保温性や断熱性に優れた素材であり、かつてとても重宝されていました。
建物躯体への吹き付け素材、接着素材、保温材・断熱材としての利用、また建築資材においてはスレート(屋根)やセメント板、サイディング、セメント円筒などその使用方法は多岐にわたります。
ところが1970年代から、アスベストによる人体・健康への影響が指摘されるようになりました。
1975年に初めてアスベストの含有量規制がなされ、それ以後はアスベスト使用が段階的に規制されるようになりました。現在においてはアスベストの使用は全面的に禁止されています。
以前はビル等の建築工事において、保温断熱の目的で石綿を吹き付ける作業が行われていましたが、昭和50年に原則禁止さ れました。
その後も、スレート材、ブレーキライニングやブレーキパッド、防音材、断熱材、保温材などで使用されましたが、現在では、原則として製造等が禁止されています。
アスベストは何で怖いのか
アスベストの使用が大きな社会問題となった理由は、人体への影響です。
繊維が細かいアスベストを長期間にわたって空気と一緒に吸い込むと、肺の中に蓄積されます。これが肺癌や悪性中皮種、びまん性胸膜肥厚及、石綿肺などの発病リスクを高める直接的な要因となります。
アスベストを吸っている期間は、本人に自覚症状が現れることもなく、またレントゲンなどで体内のアスベスト量を調べることもできません。
アスベストに関連した健康被害は、肺がん、悪性中皮腫、アスベスト肺などが中心です。アスベストに曝露されて数十年経ってから(15年~40年ほどといわれています)、これらの病気に関連した症状が出現します。具体的な症状としては咳や息切れ、胸の痛みなどがあり、原因不明の体重減少から発見されることもあります。
長い年月をかけて徐々に体内に蓄積され、発病して初めてわかるというのがアスベスト被害の恐ろしさです。このことからアスベストは、サイレントキラー(静かな時限爆弾)と呼ばれることもあります。
アスベスト規制時期と建築年数
アスベストが規制された時系列に照らして、古い建物のアスベスト使用の可能性の度合いを予想することができます。
年代 | アスベストの規制 |
1950年代~ | 自由にアスベストが使用できた |
1975年~ | アスベスト含有量5%以上の使用禁止 |
1986年~ | 吹き付け作業等の制限の指導 |
1995年~ | アスベスト含有量1%以上の使用禁止 |
2004年~ | 一部製品を除き、原則としてアスベストの使用を禁止 |
2006年~ | アスベスト使用の全面禁止 |
[取引時の注意点]アスベスト使用の建物は今も普通に流通しています
2006年以降に建築された建物については基本的にはアスベストが含まれていませんので、気にすることなく取引を行うことができます。
ところがアスベストが認可されていた時代につくられた既存の建物は直ちに撤去などの規制対象となるわけではないので、現在でもアスベスト使用建築物が中古市場に数多く流通しています。
古い建物を取引するときに注意しなければならないことを考えてみましょう。
契約不適合に該当することがある
中古建物の取引を仲介する宅建業者は、必ず「石綿使用調査結果の記録の有無」を買主に説明しなければなりません。
石綿使用調査とはアスベストが含まれているかどうかの調査のことをいい、実態に応じて「記録あり」「記録なし」「不明」のいずれかで説明します。
調査の記録からアスベストの使用が取引時点で判明している場合、その内容を契約内容として明示しておくことで、買主がアスベスト使用の事実を把握して建物を購入していることと理解できるので、不適合責任の免責事項として契約を交わすことができます。
石綿使用調査結果の記録が「なし」あるいは「不明」で取引したケースで、引渡し後にアスベスト使用が判明した場合は、売主は契約不適合責任を負わなければなりません。
したがって中古建物の売主は、アスベスト含有が疑われる築年数に達している場合は事前にしっかりと調査を受けるようにしなければなりません。
解体費用が高額になる
アスベストが含まれる廃棄物は、限られた業者でしか処分することができません。そのため解体費用が不使用建物に比べると高額になるということに注意しなければなりません。
特に吹き付け使用されている建物については解体作業にともないアスベスト粒子が空気中に飛び散るおそれがあるため、飛散防止の対策をとりながら工事を行う必要があります。
通常の解体工事よりも作業時間がかかるので、更にコストがかさむことが多いです。
リフォームに余計なコストがかかる
吹き付けアスベスト等が使用されている建物は、増改築・修繕行為に一定の規制がかかっています。
リフォームを行う場合は、アスベスト素材の除去・封じ込め・囲い込みなどを行わなければならず、通常の工事と比べると煩雑な作業になります。
そのためアスベストが使用されている建物についてはリフォーム工事を業者から断られたり、見積もりが高額になってしまうというケースが珍しくありません。
このような改修を予定している場合は、アスベスト対策の実績のある業者を選定するようにしましょう。
健康被害の懸念
アスベスト使用の建物を購入して普通に生活するというケースもあると思います。
アスベストの被害はすぐに目に見えるものではなく長期にわたって発病リスクを高めていくものですので、そのままにしておくのも望ましくありません。
特にアスベストが使用されていることが判明している場合は、費用はかかりますが除去や囲い込み・封じ込めの作業を行うことを推奨します。
実際にアスベストによる健康被害が出ている方へ
実際にアスベストによる被害が生じているというケースは少なくありません。
何らかの症例を持っている人を対象に、独立行政法人環境再生保全機構が救済制度を設けています。条件を満たせば、医療費などの救済給付を受けることができます。
また、製造や工事に携わっていた人で健康被害が出ている人を対象に、国から賠償金や給付金が支払われるケースもあるようです。
アスベストによる健康被害がある人は、一人で悩まずにお住いの担当行政庁に相談してください。