建物の賃貸借契約には「普通借家」と「定期借家」の2つの形式がありますが、具体的な違いを知りたいです。
また、定期借家を結ぶときに気を付けなければならない点はありますか?
賃貸借契約には普通借家と定期借家という2種類のものがありますが、どちらを選ぶかによって内容が大きく変わってきます。
大きな違いは契約更新の有無という点にありますが、定期借家の場合は契約手続きを誤ってしまうと効力に影響が出てしまうことがありますので注意が必要です。
まずは2つの契約を比較しながら内容について整理してみましょう。
普通借家契約とは
名称に「普通」という言葉が含まれているように、旧法から存在するスタンダードな契約方式です。
普通借地契約を結ぶときは契約期間が1年以上でなければならないとされており、1年未満で契約を結んだものは自動的に「期間の定めがない普通借家契約」という扱いになってしまいます。
第二十九条 期間を一年未満とする建物の賃貸借は、期間の定めがない建物の賃貸借とみなす。
居住用の建物普通借家契約を結ぶときは、2~3年と定める場合が多いようです。
普通借家契約の最大の特徴は、期間満了時に契約が自動更新されるという点にあります。貸主側からは、正当事由がない限り契約の自動更新を拒絶することはできません。
ただし、借主側からはいつでも契約解除や自動更新の拒絶をすることができます。旧法においては借主の権利保護規定が非常に根強く、このような制度となっています。
普通借地契約 | |
借主 | 契約解除が自由 |
貸主 | 自動更新を拒絶できない |
具体的には、貸主側がその不動産を自ら使用しなければならない特段の事情があるケースや、建物老朽化に伴い修繕や取壊しを速やかに行わなければならないケースなどが正当事由に該当します。
しかし、正当事由にあたるかどうかの判断基準には明確なラインがあるわけではなく、個別具体的に判断されることとなります。
一般的には正当事由として認められるハードルは非常に高く、当事者で折り合いが付かない場合は最終的に裁判所が判断するということになります。
普通借家の問題点
普通借家契約においてしばしば問題になるのが立退トラブルです。
前述したように、普通借家では貸主側から契約を終了させるためには正当事由がなければなりません。
正当事由は簡単には認められないので、まずは当事者での話し合いで契約終了について決めるのが一般的です。
しかし退去に関しては借主側の権利がとても強いので、交渉が硬直してしまうというケースが非常に多いのです。
立ち退きの交渉を穏便に済ませるために貸主から立退料を支払うことを交渉材料にされることもありますが、金額の多寡でトラブルになってしまうと言うケースもあります。
定期借家契約とは
定期借家契約は、あらかじめ期間が定められた賃貸借契約のことを言います。
契約期間が満了した時点で当然に契約が終了となり、契約の更新や延長がそもそもできないというのが特徴です。
第三十八条 期間の定めがある建物の賃貸借をする場合においては、公正証書による等書面によって契約をするときに限り、第三十条の規定にかかわらず、契約の更新がないこととする旨を定めることができる。この場合には、第二十九条第一項の規定を適用しない。
仮に契約終了した後も入居を継続するというときは、双方合意の上で再契約という形で新しく定期借家契約を結び直す必要があります。
ただし再契約は一般的には事前に約束しておくことができません。
借主としては契約期間後も継続して入居できるという保証がないので、普通借家に比べると家賃が安めに設定されていることが多いです。
なお、定期借家契約の期間は普通借家のように1年以上でなければならないといった定めはなく、数ヶ月間の短期契約も有効です。
契約 | 家賃 | |
定期借家契約 | 契約書に契約期間が明記 | 普通借家に比べると安いことが多い |
普通借家契約 | 借主:途中解約可能 貸主:自動更新を拒否できない |
相場通り |
再契約型と非再契約型
定期借家契約には、再契約型と非再契約型という2種類の分類があります。
再契約型は、当初の契約の時点で満了後に再契約することを前提としている場合に結ばれるものです。
ただし再契約型の契約であっても、あくまで満了時に貸主・借主の双方の合意がなければ再契約はできないということに注意する必要があります。
定期借家契約の性質上、あらかじめ再契約を確約しておくことは基本的にはできませんので、再契約型でも更新を打ち切られる可能性があるということは念頭に置いておかなければなりません。(再契約を確約する内容とした場合、普通借家契約とみなされる場合があります。)
非再契約型は、再契約をしないことを前提に結ばれる定期借家契約です。
例えば数年後には貸主が自ら使用する予定が決まっているなどの事情があるときに非再契約型で契約を行います。
定期借家の成立要件
定期借家契約は、貸主・借主が公平に取引するために、定期借家契約が成立するための要件が法律で決められており、契約書は要件を満たしていなければなりません。
要件の1つでも欠けていると定期借家契約の効力は失われ、自動的に普通借家契約となってしまいます。
(契約書の表紙に定期借家契約と書いてあっても、要件が満たされていないことで内容は普通借家になってしまいますので注意が必要です。)
最近では定期借家契約というものが浸透してきていますが、不動産業者でもいまだに要件を見落としてしまうケースもあるようですので、これから定期借家契約を結ぶ人は今一度契約書の中身を確認してみましょう。
要件①契約の書面があること
普通借家は口頭で行った契約でも効力が発生します。しかし定期借家は、必ず書面をもって締結しなければならないとされています。
実務的には書面を交わさないことはほとんどないと思いますが、仲介業者を立てずに親族間や友人知人に短期で建物を貸すと言った時に口頭で契約を結ぶということは考えられますので、身近な契約ほど注意が必要です。
要件②契約書の内容に更新を否定する条項があること
定期借家契約は期間満了とともに自動的に契約が終了となる契約です。
契約時に退去のトラブルにならないよう、「この契約書は定期借家」ということを誰の目から見ても分かるようきちんと明示しなければなりません。
具体的には「本契約は期間が満了したら当然に終了し、更新がないものとする」といった趣旨の文言を特約として記載します。
再契約型の定期借家の場合は、これに続いて「なお、貸主と借主は協議の上、双方の合意があれば新たに賃貸借契約を結ぶことができる」という文言を追記しておけば大丈夫です。
要件③期間を定めなければならない
定期借家契約を締結するときは、明確に期間を決めておかなければなりません。
たとえば「所有者が死亡するまで」「貸主が退去要請をするまでの間」のような不確定な期限の決め方はできません。
必ず「●年間」「令和●年●月●日迄」というような確定期限を決める必要があります。
もしも不確定な期間を付けた定期借家契約を結んでしまうと、「期間の定めのない普通借家」として扱われる可能性があるので注意しましょう。
要件④借主へ事前に定期借家であることを書面で説明しなければならない
借主が定期借家ということを十分に理解しないで契約を結んでしまうと、期間満了時に借主の生活が脅かされる可能性があります。
借主の権利を守るために、貸主は契約締結の前に必ず書面をもって定期借家である旨とその詳細を貸主に説明しなければなりません。
なお、この説明書面は契約書とは別の書面でなければなりません。原則として契約締結の前に説明する必要がありますが、契約日に併せて説明することは問題ありません。
定期借家契約の適法な終わらせ方→終了させるためには終了通知が必要
借主が定期借家契約の内容を理解するために前の項目の①~④の要件満たさなければならないと説明しました。
貸主側は、適法に定期借家契約を終わらせるために、契約満了時にもう1つしなければいけないことがあります。それが「終了通知」です。
終了通知は、定期借家契約が満期を迎える時期になったときに「そろそろ契約が終わりますよ!」という通知を出すことで借主側が退去時期を忘れたということを防ぐ目的があります。
終了通知は、期間満了の1年前~6ヶ月前の間に出すこととされています。
終了通知の提出を忘れてしまったとき
もしも、貸主側が終了通知を出すことを忘れてしまったらどうなるのでしょうか。
貸主は、所定の期間内に終了通知を出さなかった場合、期間満了時に借主を退去させることができなくなってしまいます。
ですが、直ちに定期借家契約が普通借家契約に切り替わってしまうというわけではありません。
終了通知を所定の期間内に出さなかった場合は、通知したときから6ヶ月後に契約が終了することになります。
通知を提出しないまま期間満了した場合であっても、同様に通知を出したときから6ヵ月後に契約を終了させることができます。
忘れてしまった期間の分、借主側に猶予が与えられるということです。終了通知は忘れてしまいがちなので、貸主はしっかりリマインドしておくようにしましょう。
定期借家の再契約を行うときの注意点
定期借家契約の期間満了時に再契約を行うときはどのような点に注意するべきなのか考えてみましょう。
誤って「更新」という意思表示をしないこと
定期借家の「再契約」と、普通借家の「契約更新」は全く概念が異なります。
結果的には継続して住み続けるという意味では言葉のニュアンスが似ているので、用語を誤って使ってしまうことがあります。
定期借家契約において、書面などで「更新」という言葉を誤用してしまうと普通借家とみなされてしまうおそれがありますので注意しましょう。
再契約するときの敷金の扱いについて
定期借家を再契約するとき、当初の契約時に預かっている敷金は原則として貸主から借主に一度返還し、改めて再契約分の敷金を交付しなおす必要があります。
しかしお金が行ったり来たりするのは煩雑ですので、実務的には旧契約の敷金返還債務と新契約の敷金支払義務を相殺するなどして、資金の移動がないように処理するケースがほとんどです。
再契約するときの手続きについて(重要事項説明)
定期借家契約を再契約するためには、原則として重要事項説明などの宅建業法上の手続きも改めて行う必要があります。
しかし借りている物件は変わらないので、前回と全く同じ説明を聞くのはあまり意味がありません。また、再契約のたびに仲介手数料を払わなければいけないというのも負担です。
そのため実務的には、不動産業者が管理業の一環として貸主・借主の再契約をサポートするという形をとっているケースが多いようです。
これから定期借家契約の業務を不動産業者に依頼する予定の人は、念のため再契約のときに再度仲介が入るのかを確認しておいた方がいいと思います。