マンションの長期修繕計画とは
長期修繕計画とは、マンションを適正に維持していくために修繕やメンテナンスのスケジュールをあらかじめ定めておいたマスタープランのことをいいます。
長期修繕計画にもとづいて維持管理が計画通り行えるよう、管理組合は各区分所有者から修繕積立金を徴収します。
長期修繕経計画の内容は各マンションごとで定められていますので、自分が所有しているマンションがどのような計画になっているのかを把握しておかなければなりません。
建物を長く活用するためには定期的な修繕やメンテナンスが必要不可欠ですので、長期修繕計画や積立金の運用状況が大切なポイントとなります。
長期修繕計画に定められる「修繕」にはどういうものがある?
分譲マンションの長期修繕計画では建物を適正に維持していくためにさまざまな箇所の修繕計画が定められています。
一例ですが、長期修繕計画で定められる修繕工事の内容を紹介します。
・給排水の修繕
・ガス設備の修繕など
・建物の屋根、屋上の防水塗装工事
・鉄部、サッシなどのサビ止め塗装など
・建物外壁の塗装
・躯体床の防水工事
・サッシなどの取り換え
・付属施設や外構などの工事
・空調設備、消防設備などの修繕工事
長期修繕計画はどのように決められる?
長期修繕計画は、全所有者のために適切に内容を決めて運営されなければなりません。
国土交通省が公表している「長期修繕計画作成ガイドライン」によれば、修繕計画を定めるときの基本的な考え方として以下の3つの項目を掲げています。
①将来見込まれる修繕工事および改修工事の内容、実施予定時期、概算の費用等を明確にする。
②計画修繕工事の実施のために積み立てる修繕積立金額の根拠を明確にする。
③修繕工事及び改修工事に関する長期計画について、あらかじめ合意しておくことで、計画修繕工事の円滑な実施を図る。
ガイドラインでは、長期修繕計画を定める目的として(1)マンションの快適な居住環境を確保し資産価値を維持すること、(2)必要に応じて建物及び設備の性能向上を図るということを掲げています。
分譲マンションでは複数の区分所有者が一つの建物を共同使用していることになります。
一部の所有者の身勝手な判断で建物の管理が適切に行えない状況になってしまうと、マンションの質が下がってしまい、結果的に区分所有者全体の不利益につながるおそれがあります。
常に良質な建物の状態を維持するために、あらかじめ「長期修繕計画」というルールを全員で決めているということを念頭に置いておく必要があります。
長期修繕計画作成のガイドラインが改定された
令和3年9月より、長期修繕計画作成時のガイドラインの内容が改定されました。
ガイドラインには法的拘束力はありませんが、国土交通省がすべてのマンション管理組合に対して指針を示したものです。
所有しているマンションがガイドライン改定の趣旨に適合しているかどうかをチェックしてみましょう。
長期修繕計画作成ガイドラインの改定ポイント
今回のガイドライン改定の重要なポイントとして、下記の3つの項目が掲げられています。
ポイント① 計画期間の見直し
これまでのガイドラインでは、長期修繕計画の全体期間を定める際、既存マンションであれば25年以上とされていました。
今回の改定により、中古マンションであっても新築と同様、30年以上でなければならないという内容に変更されました。
改定前 | 改定後 |
計画期間 新築マンション:30年以上 既存マンション:25年以上 |
計画期間 新築マンション:30年以上 既存マンション:30年以上 |
ポイント② 大規模修繕工事の修繕周期の目安の見直し
長期修繕計画では、工事の内容によって周期が決められています。
たとえば「躯体コンクリート補修=12年周期」という感じで定められていたわけです。
しかし、本当にその工事が必要になるタイミングは物件によってことなるものです。
たとえば計画上は12年周期と定められているでときあっても、10年経過したときに既に修繕を行った方がいい状態になっている場合もあれば、規定通り12年経過時にまだまだ修繕が必要な状況ではないという場合も考えられます。
通常、数年後~十数年後の建物の状態を的確に予想することはとても困難です。建物の状態に応じて適切な措置を施すという視点も大切になります。
今回の改定では、修繕の周期の目安について他の事例等を踏まえた上で一定の幅を持たせた記載をするように変更されています。
つまり、今まで「12年周期」と記載されていたものが、「12~15年周期」というふり幅を持たせた記載に変わることになります。
改定前 | 改定後 |
修繕周期(記載例) コンクリート補修:12年 |
修繕周期(記載例) コンクリート補修:12~15年 |
ポイント③ 社会的要請を踏まえた修繕工事の有効性などを追記
今回のガイドライン改定により追記されたもので、「社会的に必要とされていることに考慮した内容」が求められるようになりました。
たとえば昨今では環境問題解決への取り組みとして省エネの重要性が叫ばれています。
マンションにおいても改修工事を行う際は省エネ性能を向上させることを意識したものにすることが望ましいとされています。
また、「昇降機の適切な維持管理に関する指針(平成28年2月国土交通省策定)」に沿って、エレベーター点検を定期的に実施することの重要性も新しく項目に追加されています。
修繕積立金設定ガイドラインの改定ポイント
今回のガイドライン改定では、長期修繕計画の内容の見直しと併せて、目安となる修繕積立金の平米単価が更新されました。
あくまで目安ということなので物件の構造や共用部分の規模によって差異はあると思いますが、自分の所有しているマンションの修繕積立金が平均値と比べてどの位置にあるのかということは確認しておいた方がよさそうです。
■計画期間全体における修繕積立金の平均額の目安 | |||
地上階/建築延床面積 | 月額の専有面積あたりの修繕積立金額(月額) | ||
事例の3分の2が包括される幅 | 平均値 | ||
【20階未満】 | 5,000㎡未満 | 235~430円/㎡ | 335円/㎡ |
5,000㎡~10,000㎡ | 170~320円/㎡ | 252円/㎡ | |
10,000㎡~20,000㎡ | 200~330円/㎡ | 271円/㎡ | |
20,000㎡以上 | 190~325円/㎡ | 255円/㎡ | |
【20階以上】 | 240~410円/㎡ | 338円/㎡ |
たとえば14階建てで総戸数が50戸くらいのマンションであれば、【20階未満・5,000㎡未満】の区分に該当されます。
この規模でもっとも事例の多い層の幅は235~430円、平均値が335円となっています。
マンションの専有面積が60㎡であれば、月額修繕積立金のボリュームゾーンとしては14,100~25,800円、平均値としては20,100円ということになります。
ただし、この平米単価はあくまで「計画期間全体における修繕積立金の平均額の目安」ということに注意が必要です。
当初は平均値よりも安い積立金額を設定し、段階的に値上げをしていくという計画になっている管理組合もあります。
現在の単価だけではなく、全体的な平均単価を確認する必要がありそうです。
今回のガイドライン改定のねらいは?
全国で空き家ストックの増加や建物の老朽化などといった問題が深刻化していますが、国策としては現時点で国内にある住宅のストックをうまく利活用していきたいというねらいがあります。
区分所有マンションにおいても既に老朽化・空き家化してしまっている事例が多数ある中、長期修繕計画という観点から今あるストックを適切に維持管理することで資産価値が保たれ、利活用に促す効果が期待できると思います。
今回の改定では既存マンションの計画期間が延長されたり、省エネ対策を考慮した内容が盛り込まれたりしましたが、区分所有者は今まで以上に意識的に内容を把握する必要があると思います。
将来的にマンションを売却する予定がある人は、修繕のタイミングや実施状況が物件の売れやすさと関連することも考えられますので、資産価値について専門の不動産業者から助言をしてもらうのもいいと思います。